Disturbingなコンテンツ

閲覧注意。心がかき乱されるような内容です。

『死化粧師オロスコ(Orozco the Embalmer)』

世の中には様々な職業がある。会社員や公務員のように多くの人間が就くものから、医者やモデル、スポーツ選手など憧れの的となりやすいものまで、その種類は非常に多い。

そしてその中には当然目立たないが社会には必要不可欠な職業が存在する。それは汚く、きつく、高給でない職であったりもするのだが、その仕事をする人々がいなければ世の中が上手く回らなくなる場合も考えられる。

このショックメンタリー映画は、まさにそうした職業の人間に焦点をあてた映画である。刺激の強い映像が含まれる映画であるので、毎度のことながら以下閲覧注意!である。

 

 

 

----------

コロンビアの首都ボゴタ、その中でも特に治安が悪いとされる地域エル・カルトゥーチョ。そこでエンバーマーとして働く男性がいた。名をフロイラン・オロスコ・デュアルテという。

エンバーマーの仕事は死体に防腐処理を施したり、葬式に向けて故人に化粧をすることだ(エンバーミング)。この時点で「この仕事やってみたい!」と思う人は少ないと予想できるだろう。様々な方面で免疫がないと辛い仕事であると思う。

この男性はその昔警察として働いており、ときには民主を弾圧したり拷問を働いたりしたことがあったそう。しかし後にそのことを悔いてか、この職に転身し最低限の値段で数多くの死体をエンバーミングしてきた。休みはほとんど取らず重労働を次々と、ひたすらこなしていた。前職で仕事のためとはいえ人を傷つけ、ときには命を奪ってきたことがやはり苦しかったのだろうか。

この映画ではそんな彼の仕事の様子を見ることができる。死体を台の上に乗せ、腹を切り開いて内臓を出し、水で洗って腹を縫って塞ぐ。鼻や口に綿をつめ、服を着せて棺桶に入れる。これを1人でやる。低給でやっているためか器具などは恐らくほとんど安物だろう。メスに至ってはエンバーミング用のものかどうかも怪しく思える。そんな環境で彼が働く様を見ていく。

この映画に著しい欠損のある死体はない。見ててきついものといえば内臓がずるりと出てくるところだとか、あとは死体にメスを入れたり縫ったりするシーン。あとは1箇所だけ頭部の皮を裏返すなんていう変わった作業工程なんかも出てくるが(この作業はオロスコとは別の人間が行っている)、基本的にこれらの光景は見ていれば慣れてくるものだと思っている。これ以外にゴアな表現はほとんど無いため、衝撃的な映像はあることにはあるもののそれがこの映画の本質であるとは思わない。

この映画の本質は知り、学ぶことだと思う。つまり教育的な映画であるともいえる。当然子ども(やゴア耐性のない大人)に見せていいものではないが、それでも学べることは多いと思う。もし見られるのなら映像をしっかり見た方が良い。まずコロンビアのスラム街、死体がそこらに転がっている風景。人々は死体を見ていちいち叫んだりしない。横を素通りしていくし、子どもたちも中高生ぐらいになると狼狽えない。こんな光景は日本では考えられない。

そして死体が新たに見つかれば人々はどうする。当然警察が来て、そしてその場で検死が行われる。死体を見にぞろぞろと集まった人々の前で服を脱がせ、そしてようやく運び込む。死体を隠そうとはしていないように思える。これも治安の悪さが影響しているのだろうか。

オロスコは実に5万体もの死体を処理してきた。これほどまでの数の死体を相手にできたのはオロスコだから、というのもあるだろうが、そうとは言えこの仕事は過酷である。彼はこの重労働によりヘルニアを患い、ついには亡くなってしまった。しかし彼の働きを誰が否定できようか。防腐処理により疫病の蔓延を防ぎ、人々の暮らしを守ってきた。また最初から綺麗な状態で残っている死体などほとんど無いため、それを綺麗な状態に整えて葬儀に出し、遺族に見送ってもらうことは死者の尊厳を守ることに繋がる。社会的地位だとか、給与だとか、もちろんそれらも大事だが彼のように表に出にくい職業の数々がどれほど社会の役に立っているかを、私はこれまで以上に考えることとなった。そして同時に、それらを生業とする人々にこれまで以上に敬意を抱いている。

私が思うに『死化粧師オロスコ』は教育的な側面をもつ映画である。先述した通り、ならばといって馬鹿正直に子どもに見せるなんてことをしてはいけないが、世界の実情と世の中を支える職業について学ぶことができるという点で良い作品、いや良いショックメンタリー映画だと思う。例えば、ただ死体の解剖のような過激映像を見て悲鳴を上げたいだけならば『ジャンク (Faces of Death)』シリーズでも見れば良い。しかし、この映画はただのそういった過激映像集ではないことを私は強調したい。自分で見ることで何か思うところが出てくるはずだ。ある程度耐性がある方は是非見てみてほしい。